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「神曲」 31-38



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 玉姫は思った。「美しい、これほどまでに人は美しく成れるものなのか」
 田舎の伯母ちゃん、山奥の爺っちゃんのように、あけっぴろげで、何の気構えもする必要がない。だから見ず知らずの人とも自然にうちとける。決して偉らそうにしている人は見かけたことがない。「ああ、なんて素晴らしい星なのだろう」皆がきらきらした、澄んだ目をしている。ああ、敦盛さまに見せてやりたい。そう玉姫は思った。
 偉い人ほど気構えがなく、腰が低い。こちらが恐縮してしまう。そして良く話しを聞いて下さる。話し終わるまで口をはさまず、良く聞いて下さる。なんて素晴らしい人達なのだろう。なんて優しい、美しい心をもった皆様方なのだろう。そう玉姫は思った。
 いつも宇宙船に乗り、神の囁きを聞いているそんな人達であった。神の仕組みを、この地上の星々に映し出そうとするのが、玉姫達の星の人達の仕事であった。その人たちは、地球の人達の進化も、課題として採り上げられ、研究されていた。

「神曲」 31-38_a0144027_17483873.jpg だがその地球では、遥かなる昔、そう 遥かなる昔…、この惑星であるマゼラン星雲から移住して来たのに、誠に、誠に残念ながらその事実を忘れ、未だに人類は、猿から進化したものであると信じられている。




 玉姫は泣いた。
 玉姫がこの星に来てから、何かにつけて、手とり足とり教えて下さった長老が、お亡くなりになった。玉姫は、涙が零れてきて仕方なかったが、この星の人は、その玉姫を見て貰い泣きはしたが、泣かずとも好いのだよと、玉姫に優しく諭した。
 そして葬儀のその日、長老は大きな輝く球体となって皆の前に現れた。そしてこれより、オリオンのMC95という惑星に生まれ変わっていくのだと告げられた。皆は人霊から、更に進化された、惑星へと成られる長老の大霊に喜び、祭りの宴を盛大にとり行なった。雅楽のような吹奏が始まった。天宇受賣命(あめのうずめのみこと)様が踊り始めた。そのあと、どことはなく、ハレルヤ・コーラスみたいな歌声が自然に湧起こり、みんなで歌い始めた。

 長老の大霊は人の形になり、玉姫の手を取り、その涙を拭き、いずれ人が住めるように成ったとき、敦盛と姫が、吾が星に生まれ変わって来るようにと、何時もの優しい眼差しで言われた。ああ、胸がキューウンとしてきた。そして胸が… つまった。
 セムは、地球で遣らなければならないことがあるゆえ、もう暫しの辛抱じゃ、玉姫、泣くではないぞと、優しく言われた。だが玉姫は泣いた。熱い涙がこみ上げてきた。長老の手を玉姫はかたく握り締めた。これから長老はご自身の御体の上で、幾多の文明を築きあげられるのだろうか。そうして更に敦盛様とも一緒になれる。
 玉姫の胸はふるえた。
 そして長老は、吾が星 MC95に、日本の神々が来られるだろうと 玉姫に言った。
 「ああ、お懐かしい 高天原の神様か」
 玉姫はまた泣いてしまった。思わず長老を抱きしめた。星になっては、もう抱きしめることも出来ない、そう思い、何時までも抱きしめていた。長老は、巨大な光の玉になり、玉姫を優しく包んだ。そうして オリオンを目指して飛んで行かれた。


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「神曲」 31-38_a0144027_12264029.jpg ガダルカナル島は、長さ約百四十五キロ、幅約四十キロ、総面積五千七百平方キロのジャングルに覆われた島である。一木清直陸軍大佐は、昭和十七年八月十六日、歩兵一個大隊と、工兵一個小隊を率い、残りは後から来るようにと命令して、九百三十人を率いてガダルカナル島へ向かった。
 砲は持たず、機関銃と小銃、それに手榴弾と地雷だけという軽装備で、食糧は各自十日分を持たした。十日あれば敵を掃討して 後から補給を受けられると考えたのである。

 「何という浅知恵か」
 その時、敵は一万三千人もいたのである。皆ジャングルに潜んだ。また、現地人の通報により、米軍のF4Fワイルドキャット戦闘機は、日本軍がいる所のジャングルの上を機銃掃射して回った。
 無事、奇跡的にとも思われる、新たに上陸した第二師団 (この師団は、後に 牟田口廉也陸軍中将の率いる インパール作戦に赴き、白骨街道となり、殆ど全員が玉砕した) を迎えたのは、一木、川口両支隊および、海軍工兵隊生き残りの、阿南中佐もいた。皆、衣服はぼろぼろで全員痩せ細り、歩くのもやっとという有様だった。ああ、まさに生ける屍だった。

「神曲」 31-38_a0144027_12182219.jpg 過度の栄養失調で、食物を受け付ける力も無くし、極限まで細くなった首は、青膨れにむくんだ頭を支えられそうにもない。手足は枯れた木のようでもあり、もうこの時点で、この兵達は、蛇、トカゲ、ネズミまでも捕らえて食べ尽くし、木の葉、草の根、水苔まで食べ、アメーバ赤痢による、度重ねる下血と、マラリアに苦しまされ、やっと生きている状態だった。


 八月二十一日、午後三時、密林の中の、太陽の光のカーテンのもと、一木清直陸軍大佐は軍旗を焼き、自らは割腹した上で 頭に拳銃を宛てて撃ち、自殺した。
 何が 「草生す屍」だ。何が 「水漬く屍」だ。この有様を、敵の斥候がずうっと見ていた。哀れ武士の情けと思ったのだろうか、手を出さず、ただ見ていた。

 人は何の為に戦うのか、そんなに国が欲しいのか、そんなに国が惜しいのか、ただ国威高揚という名誉の為だけなのか、どうして死地に兵を置き去りにしたり出来るのか、こんな史上恥ずべき作戦を、何処の頭でひねり出してきたというのか。それで若き優秀な兵のDNAが、露と消えてしまったではないか。この罪を、誰が責任を負ったのか。

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 一九四二年十二月頃から、アウステン山の守備兵より、不思議な余命の判定が流行り始めた。「立つことの出来る人間は、寿命三十日間。体を起こして座れる人間は三週間、寝たきり起きれない人間は、一週間後、寝たまま小便をするものは、三日後、ものを言わなくなったものは、二日間後、またたきしなくなったものは、明日。」
 五味川純平「ガダルカナル」より。

 そして、その中に大田大尉もいた。米軍は、スプルーアンス中将の、タワラ島玉砕に向けて兵力を結集していた。
 …
 「敦盛さまー、敦盛さまー」と玉姫の声が聞こえてきた。
 「セム、しっかりしろ、セム」「セムちゃーん」と親父とお袋の声が聞こえてきた。
 ああ、玉姫か、親父か、おかあちゃんか。まだ大丈夫だよ、
 まだまだ大丈夫だよ、
 これっくらいまだ平気だよ、とセムは言った。
 …


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「神曲」 31-38_a0144027_0263049.jpg 大田晴海大尉の所に 天照大御神様が降りてこられた。
 ここは高天原の山の中腹にあたる大田大尉の庵である。天照大御神様は、「どうもお前様を見ていると、兄様のことが心に映り仕方がない」と言う。
 「それは良く分かります、私達の神様ですから」とセムは言った。
 「名は、イザヤ神と申します」
 伊邪那岐命(いざなぎのみこと)と、伊邪那美命(いざなみのみこと)の御両親から産まれた第一子で、その御両親の頭文字の御名前を御取になり、イザヤ神とされたのです。
 「まあ、それは知りませんでした」 私にもやはり兄様がおられたのですか。で、その御方はどのような神様ですか、私はお亡くなりになったとばかり思っていたのですが、
 「いえいえ、とんでも御座いません。たいへん御立派な神様です」
 世の始めに、高天原にさまざまの神様がお生まれになりましたね。
 「はい」
 その中の、伊邪那岐命と 伊邪那美命が、大八州国(おおやしまのくに)をお創りになって、それが日本国の古い名となりました。
 「ええ、そうです」
 そうして、第一子をお産みになられましたが、なよなよとして、とてもお育ちにはなれないと思って、葦で作った船に乗せ、海に流しておしまいになられました。
 御両親は、これはどうした事だろうと思われ、御自分等ではどうにも分からないので、とにかく高天原へ上って、天津神(あまつかみ)に御相談されました。
 「天ノ御柱(あめのみはしら)を廻って出会ったとき、女の方が先に物を言ったからだ」と、天津神がこう御教えになると、御二人の神様が、もう一度やり直して見ましょうといって、天ノ御柱をお廻りになり、その後に、貴方様 天照大御神様と、月夜見尊様をお産みになられました。とセムは話し、
 その葦船に乗った なよなよとした未熟児が、大海の揺りかごに乗って筋骨がつき時折光を放ち、我が先祖の宇宙母船に拾われ、御成長されたのです。
 と、セムが話すと、天照大御神様が、

 「ああ、良かった」
 「一度おめもじしたい」と仰った。
 で、それから、
 それから、
 「どのような、行く末をされたのじゃ」
 是非、聞かせてたもれと仰った。

 我が先祖の宇宙母船は、永住の地を探す旅の途中でありました。葦船から救ったその子は、直ぐに偉大な神の子と分かりました。
 「うんうん」
 その子からは、常に四、五十メートルの後光がさしていました。そして その子の指し示す星の上空で、その子が国産みをされたと聞いております。
 「まあ、それで」と、天照大御神様がお身を乗り出し、セムは話しを続けた。
 その子は宇宙母船をすり抜け、母船に跨り、直接宇宙の神々とお話をし、貴方様の事や高天原の事も、全てお分かりの御様子でした。
 「はい」
 そして母君にあたる 伊邪那美命が黄泉(よみ)の国に入られたのを大層お哀しみなされ、今後自らが国産みする時には、決して黄泉の国、地獄、煉獄は作らぬとの、固い決意を持っておいででおられたと、聞いております。
 …
 「ああ、好いことを聞いた」
 「それで発疹とやらを出すのじゃな」
 「さすがは、兄者だ」と天照大御神様が仰り、
 「それで今また、国産みされているのじゃな」
 「ああ、早く会いたい」と申された。
 …
 星も生き物である。人よりも数十段もの 上の霊格をお持ちである。何時も寒い所と暑い所が同じであれば誰しもが寝返りをうつ。この星もそうであった。極移動、ポールシフトである。そのために南極と北極の氷が溶け、大陸が静かに沈み、なめらかな自転が出来るように、出ている所を引っ込め、沈んだ所を盛り上げさせる。セムがいた所がそうである。

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 今、天照大御神様の兄の、イザヤ神が、国産みされているその最中である。そして大陸が出来た。山の精、野の精、木の精、草花の妖精を呼び寄せ、人が住める土地にされた。イザヤ神は神の光を分光せず、直接光りを降ろした。そのお蔭で多くの神を必要とせず、御教えに反故をきたさなかった。
 ここまで聞いて、天照大御神様はたいそうに御歓びなされ、近々会いに行くと、何やら意味深の御様子で、帰って行かれました。 


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 発疹といっても、かわいいものである、そんな醜悪なものではない。ちょっとした赤い小さなさくらんぼである。イザヤ神は宇宙旅行を奨励しておられる。そして、数多くの日本人を受け入れてこられた。大戦中、その潔さをずうーと見ておいでであった。その殆どが南太平洋に散った英霊である。敵艦めがけて突入した人とか、あのニューギニアのブナで玉砕した、二千名の兵隊達がそうであった。
 「世界一の猛闘」とされたブナの決戦は、七分の一の兵力で、戦友の死体を盾としてまで勇戦はしたが、昭和十七年十二月二十八日、海軍中将安田義達は、連合艦隊指令長官に決別の電報を打ち、後に部隊は全滅した。そうした霊達がイザヤ神の、セムの国の母船に拾われ、魂ぱくと肉体を修復されたのである。

 大田大尉も帰国の準備をしていた。一度見ておきたいのである。何やら有り気である、胸騒ぎがする。大田大尉は、仙界の阿南中佐の所に飛んだ。阿南中佐は、役の小角殿を呼んだ。なにやら不穏な雲行きである。小角殿が言った。
 「セム殿の星が襲われかけている」「知力、理力だけに優れて、徳力のない宇宙船団が襲ってきている」と言われた。
 大田大尉の胸騒ぎがあたっていた。今はセムの星の人となった、ニューギニアのブナで玉砕した 二千名の兵隊達が防御戦を張っている。急がなければならない、阿南中佐こと セシルは、仙界にいる大兵卒を従えて、反撃に転じるべく、志願者を募った。
 これに全員が応じた。陸海の少将、中将、大将が兵を従え、死に花を咲かせに来たのであろうか、層々たるメンバーである。前回よほど無念であったのか、恐ろしき形相である。九百三十人の元 一木支隊の隊員も乗り込んでこられた。それでセシルの母船に全員が乗りこみ、M61星雲をめざした。セムの星である。


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 決戦が始まった。本来霊体であるのだが、このクラスになると肉体化するのに何の障りもない。ただ、殺されると、正気に戻るまで時間を要した。
 那須の与一が弓矢を持って飛び出した。陸軍大将の寺内寿一は、部下の兵士等に小銃を持たせて飛び降りた。また、陸軍中将の坂口静夫の坂口支隊も飛び出した。示現流初代、東郷重位も、太刀を持って飛び出した。皆、それぞれの時代のえものを持って飛び出した。

「神曲」 31-38_a0144027_20225869.jpg 敵はクローン人間である。父母を知らず愛を知らず、また神も知らずに育った兵隊であった。敵兵はレーザー銃を持って、これに対応した。那須の与一の大弓は、これに応えた。
 坂口支隊は、これに小銃で応戦した。敵兵のレーザー銃は 数百回撃つと電力を消耗して充電をする。その間隙をぬって、薩藩御流儀、示現流宗家の東郷重位が、チエエィーっと、抜き打ちを浴びせた。示現流の「抜き」は、抜き即「斬」といわれた。その示現流は、朝三千回、夕に八千回の立ち木打ちをしている、攻め一本の流派である。守りの構えは示現流にはない。

 (それで)
 (それとこれと、どう話が繋がるのだ、)

 「ああ、ごめん」余計なことを書いてしまって、
 その示現流初代の東郷重位は、敵兵のレーザー銃をまともに脳天に食らい風穴を通され、殺されてしまった。やはり飛び道具には適わないらしい。陸軍航空隊きっての精鋭部隊、加藤隼戦闘隊、陸軍一の名パイロット陸軍少将加藤建夫らは、クローンの母船に、「おう、おう、なんとな」 果敢な体当たり攻撃を仕掛けていた。また坂口支隊は破竹の六段飛びで、敵を次々と撃破し進撃していった。その坂口支隊長は各隊長を集めて次の訓示をした。

 「諸隊ハ益々連絡ヲ密ニシテ旺盛ナル士気ヲ以テ其ノ任務ニ邁進シ、常ニ清新溌剌機眼ヲ養ヒ過失ヲ転シテ戦勝ノ端諸ヲ開クノ概アルヲ要ス」と言った。

 何やら訳の分からぬ事を言っていた。
 さすがは 一木清直陸軍大佐が選りすぐって、ガダルカナル島に送り込んだ、その肉体化した 元死霊部隊の活躍は、目覚しいものがあった。また、武田の騎馬軍団がおよそ五百騎、色とりどりの袋のような旗印を背負い、敵陣に向かって駒を駆り、走り去って行った。

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 ひとしきり戦闘が止むと、天空からまばゆい光が降り注いだ。
 言い知れぬ波動に、皆震えた。
 イザヤ神は、「もう、それぐらいで止めよ、」と一喝された。
 そして、クローンの母船団と、クローン人達を一箇所に集め、イザヤ神の魂の一部を、神の光を分け与えられた。
 今それが入っているところだ。
 小刻みに、胸が震えた。
 「  」
 嗚呼、更なる波動に、涙が止まらなくなった。
 硬い凍った心が優しく和んでいった。
 体が温められ、むず痒くなり、熱い血流がほとばしっていく感じであった。死んだクローン人達も生き返らせ、イザヤ神はその魂を、神の光を、その胸中に分け与えられた。
 クローン人達は始めて親神を知り、胸が張り裂けんばかりに嗚咽し泣いた。
 慟哭した。
 大声で泣きじゃくった、
 寂しかったであろう、辛かったであろう、その気持ちが伝わってくる。
 更に、薄紫の光がこれに加わった、天照大御神様の慈愛の光だ。
 天照大御神様も飛んで来られた。
 例え様のない、胸の高まりに、感極まった。
 ああ、… 胸が、
 熱くなった。
 自然と、クローン共々、皆 涙を流した。

 天空にはイザヤ神と、天照大御神様の大霊が一つになり、ひときわ大きな球体をなし、燦燦と光り輝き、光のシャワーが出ている。三六〇度の、真昼のオーロラが出来ていた。それはそれは美しかった。白銀と紫の光線だ。こうしてクローン人達は全員、真の大霊の、神の魂を得たのである。
 もう大丈夫、セムの星を後にして、クローン達はオリオンの星へと目指して旅立った。セムは地球へ帰ることとした。地球で、まだまだ遣り残したことがありそうである。
 元死霊部隊の全員は、ブナの兵士等とここに残ると大尉に言った。「あの、靖国の神様は情けなかった」と言い、「それに、ガダルカナル島で見捨てられた将官の顔を、もう二度と見たくない」と彼等は言った。


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 妖精のカンミちゃんは、老木の爺ちゃまのどんぐりを埋めた。今は海に沈んだ爺ちゃまだけど、どんぐりだけは持ってきていた。そのどんぐりから芽が出てきた。

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 嬉しかった。カンミちゃんは、甲斐甲斐しく世話をやいた。また爺ちゃまが、色々と話しをしてくれる日を待っていた。それをイザヤ神が見ていて、それでその芽は双葉になり、勢いよく成長した。カンミちゃんは喜んだ。それを見ていたイザヤ神も喜んだ。爺ちゃまの若木が、「カンミちゃん ありがとう」と言った。イザヤ神は、カンミちゃんに、一緒に埋めると好いよと、魔法の銀の粒をいくつか与えた。

 日本から来ていた植木屋も世話をやいた。この人は 太平洋戦争の、ブナで戦死した人である。その人は、昭和十八年一月二日、安田、山本重省連隊長と最後まで陣地を守備し、約十名とともに敵陣に突入、玉砕した、増田為吉という植木屋であった。
 この外二千名のブナの勇士が、霊魂となり ニューギニアの地をさ迷い、セムの星の宇宙母船に助けられた。皆希望して 平和で高度なセムの星で暮らすことを決めた。  
 また神風特別攻撃隊の面々もおられた。散りじりになった魂ぱくを、セムの星の母船の人達は元の体に修復してあげた。セムが ガダルカナル島で、大田大尉として飢餓地獄にいた頃の話しである。

 セムとセシルは、元死霊部隊員を残し、武田騎馬軍団と地球へ帰ることとした。もちろんあの大兵卒を従えてきた将軍ともどもである。今度は地球がきな臭くなってきている。地球を、大掃除する時が間近にきていた。


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 地球へ帰って、皆はそれぞれの霊界の家に帰った。セムはセシルに礼を言いに、セシルこと阿南中佐の仙界に留まり、大田大尉は礼を言った。そして役の小角殿にも礼を言った。
 この三名はともに霊格が高い。そして恐れ多くも、アラーの神様と 酒を酌み交わそうと話がついた。
 「だが、お酒はお嫌いではなかったのか」
 「いや、そうでもなかろう」と、アラーの神様の所に、お恐れながらと訪ねて行った。どんな絢爛豪華な宮殿にお住まいなのかと思っていたら、そこは質素な あずま屋だった。大雲海とかいう美味い日本の御酒を、一杯二杯と飲みながら、ここでかいつまんで、宇宙開闢の話しをしようと、アラーの神が仰った。それで宇宙の始まりから教えてもらった。
 …
 「遥か昔、まだこの世では夜空に星が一つも無かったとき、たった一つの意識があった。それは純粋な愛の意識であった」「愛は愛するものを求める」と仰った。(注)宇宙根源の言霊は今で言うところの天草弁であった。

 「神曲」 31-38_a0144027_22321250.jpgそこで「おいが意識が、天地に満ち溢れんがため、どげんしたら良かろうか」と創造主は思われた、とアラーの神様が仰った。 「光ば 出してみようかいな」 そう思われた瞬間に、漆黒の宇宙が震え出した、らしい。
 「うん、まず吾が姿ば投影してみよう。それが好かばい」「おお、おお、そぎゃんこつたい、こんで好か」と思われなされたら、また漆黒の宇宙が震え出した。
 そうして「光ば、あれ」と仰ったそうじゃ。
 いいようのない妙なる響きが、宇宙に広がった。いわゆる「ビッグバン」じゃ。
 みんなが想像している そんな暴力的な爆発ではないぞ。それはそれは妙なるシンホニィーの響きの、そのメドレーにのって、
 そうじゃなあ、喩えれば、ヘンデルの「司祭ザドク」のような音楽じゃったそうな。


 星々が手を取り合って、銀河となり、創造主の各器官を作り始めた。
 星は活き活きとして生き、そして皆 その器官には、役目があり、それぞれが高い霊格を持っている。その中心格が、銀河の王であり、恒星の大霊であった。
 「うんにゃあ、こんだけでは、つまらんばい、吾が喜びと共感するもんば創らんとなあ」と、創造主はそう仰り、自分に似せて人間を創ったそうじゃ、とアラーの神様は仰った。
 草や木、森や湖を創った。動物も創ってやった。海や陸が、賑わった。「おお、こんでこそ好かっとばい」と、創造主は思われたそうじゃ。「いわゆる世にいう六日目のことじゃ、実際は、そうでもないのじゃが」「まあ、喩え話じゃ」
 創造主は、その前に神様を創られていた。その方々は、各々の惑星から分霊され、銀河の中心にある恒星の大霊が その治める星と国を指示された。地球でいうとな、一番難しい地域を、一番力がある、我アラーがその任にあたったと仰った。これから如何にするか、見物であるぞと アラーの神様は 言われた。
 …
 ほつれた糸は中々元には戻らぬ、いまに見ておられよ、いまに。日本とアラブが世界の中心になる時が来るぞ、と仰せになった。実は、わしの言葉を伝えた預言者ムハンマドは、はるばる高天原からこちらに来られた方じゃぞ。
 「しかし人や子供が自爆している… 」とセムが伺うと、「それも霊修行のうちじゃ」とアラーの神は平然と言った。

 何か腹案が御在りであるらしい、そうセシルは思いながら、セムと小角と共に杯を重ねた。第三次世界大戦が起こりそうである。火種は何処か、まだ謎である。アラーの神様とのお酒は美味かった。いわゆる御神酒であった。そして三人は酔いつぶれた。










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by hirosi754 | 2010-06-02 16:35 | 小説