「未来からの訪問者」日本よ永遠なれ

055.gif「天草島原の乱」1-2 「昭生と朱美」 「神曲」ep…1 「二人の酔っぱらい」ep…1 「洞窟での出来事」野良猫との再会 「覚永和尚」 「みどりと信夫の大当たり」 「仙人候補生」と姉弟 「二人の酔っぱらい」1-2 「神曲」第一部1-56 「神曲」第二部57-78 「亜衣姫と羅夢王」1-7


a0144027_7553621.jpg 「あのう」
 「あの…」
 美佐子は思い切って後ろの席に座っている青年に声をかけた。
 「ん。何か」と青年は振り向いた。
 美しい。
 美佐子は、この世の中で こんなにも美しい人には、まだ出会ったことがなかった。
 自然と 自分の顔が赤らんでいくのが分かった。

 「その薄くて平たいものは何ですか」
 「ああ、これ。これはパソコンですよ」と青年は言った。
 「でもキーボードがありませんけど」
 「キーボードは要りません」と、青年は テーブルの上に文字を書いた。
 「こうして 指先で文字を書くのです。そうすると、その動きをパソコンが感知して、こちらのディスプレイに、自動的に漢字変換されていきます」
 「ひらがなだけでも」
 「そう、音声だけでも構いません。英語にも他の言語にも即座に対応し変換していきます」

 「それ、私も欲しいのですが、どこに行けば買えますか」
 「まだ売ってはいませんよ」と、青年は微笑みながら答えた。
 「これはもう旧式ですが、2058年製です」

 「えっ、」
 美佐子は耳を疑った。
 「今なんて」
 「2058年」
 「ではあなたは、2058年から来られたのですか」
 「いえ、2062年から来ました」

 「あのう」
 「まだ何か」
 「そちらの席に移ってもいいですか」
 「いいですよ」
 美佐子は紅茶の入ったカップとバッグを手に取ると、青年の前に座った。そして「こういうものです」と名刺を渡した。

 「ほう、NHKの方ですか」と、青年は言った。
 美佐子は「2062年でも まだNHKがあったのですね」と聞いた。
 「いえ、日本国営放送局NKです。今の時代のように、おつむが左がかった人はいませんが、」と笑い、「申し遅れました僕は原田克と言います」と言った。

 「おつむが左まき」美佐子はむっとして、
 「では、原田さんが未来から来たという証拠は」と尋ねた。
 原田青年は左のズボンのポケットから一枚のコインを取り出した。
 「この人に見覚えはない」と、美佐子に金貨を見せた。コインには日本国と銘打たれている。

 「〇〇さん」
 「そう、〇〇元総理」と、原田が言った。
 「へーえ、〇〇さん、総理になっちゃったの」と美佐子は驚いた。そして日付の刻印をしげしげと見て指で押し、曲げた。
 「ああああ、曲げちゃ駄目、それ24金だから」と原田青年は言った。
 美佐子は元どおりに平にして、コインをテーブルの上に置いた。


 「あのう」
 「何か」
 「そのう、インタビューさせてもらってもいいですか」
 原田は、ディレクター高橋美佐子と書いてある名刺を眺め、少し考えてから、美佐子の眼をじーっと見つめながら「いいですよ」と言った。
 美佐子は克の その澄んだ瞳に吸い込まれそうになりながらも、立ち上がり「亀ちゃん、こっち、こっちに来て」と、カメラマンを呼んだ。

 「何すか」と、ソニー製の報道カメラをぶら下げて、亀本は美佐子の隣りに座った。
 「亀ちゃん、今から こちらの方とインタビューしますから、カメラ回して」
 「OK、いいっすよ」と亀本はカメラを肩に担いだ。
 「それではいきます」と美佐子が言い、カメラは原田の顔を捉えた。

 「あなたはどこから来られたのですか」と、美佐子は改めて聞いた。
 原田は「2062年の東京からです」と答えた。
 「ええっ、」と亀本が驚いた。
 「ではそれを証明するものは」と美佐子は聞いた。

 克は財布の中から五万円札と身分証明書を出した。亀本はそれにズームインした。名前は原田克(つとむ)、住所は、神宮前A-135-BC2371と記されていた。
 克は五万円札の肖像画を指さし、この人に見覚えは、と聞いた。

 美佐子は「あ、ひょっとして」と言った。
 「そう、稲田朋美総理です。この方が戦後日本の一番危うい時代の舵取りをされておられました」と原田は言った。

a0144027_17113972.jpg


 「戦後と言われましたが、それは第三次世界大戦のことですか」
 「そうです。WW3です」
 「それはいつ始まるのですか」
 「2021年初頭から4年間です」
 「では東京オリンピックの翌年からですか」
 「東京オリンピックは開催されません」

 「えっ」と、美佐子は驚いた。
 「とても五輪を行なえる状況ではなかったからです」
 「それはどうして」
 「今年から中国の内部崩壊が始まり、各地で内乱が起こります」
 「はい」
 「政府機関は完全に統治能力が失われて、軍部も幾つかに分かれ、自国民の間で凄惨な戦闘が繰り広げられます。これが2020年まで続きます」

 「日本への影響は」
 「中国海軍が沖縄の一部の島々に上陸し占領しました」
 「そのとき自衛隊は」
 「自衛隊というものはありません、国軍です。無論一蹴しましたが、島民が人質にされました」
 「アメリカ軍は助けに来てくれましたか」
 「いえ、そのころアメリカはデフォルトに落ち至っている最中でした」
 「それはなぜ」
 「中国がアメリカ国債を投げ売りしたからです。アメリカの株価は暴落し、その影響は全世界にと広がっていきました」

 「ヨーロッパにもですか」
 「そうです。EUはもっと悲惨です。ユーロは価値を失い、長いデフレの時代に突入していきます。ギリシャもスペインもデフォルトを宣言しました。このときスペインの北東部とフランスの一部に大きな地震がおきます。2019年の4月のことです」
 「なるほど、それでは東京オリンピックどころではありませんね」と美佐子は言い、
 「中東はどうなりましたか」と聞いた。

 「中東での戦争には核兵器が使われ、この世の地獄とも称されました。これは2021年からです。また中国共産党は、中国北西部に逃れていたのですが、ここが最も原爆の被害が多かった地域です」
 「それはどこの国からですか」
 「それは言えません」

 「韓国はどうなりました」
 「韓国という国はありません。南北朝鮮は宣戦布告もなしに対馬に上陸し、日本に攻撃をしかけてきたのですから、日本人はブチ切れました。日本軍は、韓半島を占領したのです。これは2022年のことです」
 「それで日本軍の死傷者は」
 「約3500名ほどです」
 「それでは軍隊に入る若者は少なくなった」
 「いえ、ますます増えています。主に兵站の仕事ですが、若者の失業率が減り 日本経済の底上げが出来ました」

 「中国とも戦ったのですか」
 「はい。中国の艦船は全て日本の潜水艦に沈められ、J-10やSu-27の中国空軍機は、日本軍のF-15には全く歯が立たず、ことごとく撃ち落されてしまいました」


a0144027_1629461.jpg


 「地上戦も行ったのですか」
 「いえ、地上戦はインド陸軍が行い、中国は滅び、インドとなったのです。だから日本とインドは非常に仲がいいのです」

 「中国もなくなり韓国もなくなり、それでロシアはどうなりましたか」
 「ロシアに動きはありませんでしたが、日本側に交渉を持ちかけてきました」
 「それはどんな」
 「北方四島と樺太 それに千島列島と、日本が占領している旧満州、韓半島を交換する提案でした」
 「それでその提案に日本は合意したのですか」
 「そうです」
 「そうですか、東亜三国はなくなり、インドとロシアになったのですね」
 「そう」
 「まだあります。台湾が日本国となり、台湾県になったのです」

 「へーえ」と美佐子は唸り、
 「またずいぶん南北に長い国土となりましたね」と応えた。
 「はい。台湾の人たちが日本国にしてくれとのことでしたから。これで日本は53都道府県になったわけです」
 「また、ベトナムの人たちやインドネシアの人たちも、日本国民になりたいと言っておられます」「いずれ日本国連邦と名乗られるかも知れません」

 美佐子は「へーっ、ほんとに、ではちょっとここで一息入れましょうか」と言った。
 亀本は「戦前の大東亜共栄圏に戻ったわけかあ、すっげえー、まあ南北朝鮮はいらんけど」と言った。
 そして三人はドリンクをそれぞれ注文した。


 美佐子は、紅茶をゆっくり飲み干すと、「ではまた質問にうつります」と言った。
 亀本はカメラを担いだ。
 「2062年のことをお伺いします。首都は東京で変わっていませんか」
 「変わっていません。東京です」
 「地震はありましたか」
 「はい。横浜に被害が出ました」
 「震源地はどこでした」
 「それは言えないことになっています」

 「では天皇制は残っていますか、そのお方は男系男子ですか」
 「もちろんです。元号は安治と言います」
 「そのお方のお名は」
 「考えてみて下さい。今の時代にご存命です」
 「ああ、はいはい。良く分かりました」
 ここで美佐子はコップの水を一口飲んだ。


a0144027_9262743.jpg 「では、2062年において日本と敵対している国は」
 「ありません」
 「日本の国旗は日の丸から変わっていませんか。国歌は君が代のままですか」
 「日の丸。何ら変わってはいません」

 「天皇陛下への日本人の敬愛は変わっていませんか」
 「日本どころか世界中から敬愛されています」

 「今後日本から傑出した政治的なリーダーは出現しますか」
 「輩出されます」
 「東京の景観は今と比べてきれいになっていますか」
 「東京は世界一複雑な都市です。地上都市、空中都市、地下都市、それぞれが繁栄しています」
 「地下都市について教えて下さい」
 「高層ビルディングが立ち並び、リニアも走っています。なんら地上都市と変わりがありません。住民も800万人ほどです」

 「日本は何らかの天然資源の主要産出国になっていますか。例えば海底資源とか」
 「62年現在の日本は天然資源輸出国の代表格なのです。これは、いろんな問題に抵触するために、言うことが許されていません」

 「日本の主力産業は何ですか」
 「ロボット」
 「ロボットはどの程度のレベルで実用化されていますか」
 「例えば、日本で生産されているすべての自動車がロボットです」


a0144027_10262045.jpg 「ここで一息入れましょう」と美佐子が言った。亀本はトイレに行くために席を立った。美佐子は「お金はどうしています、お住まいは」と聞いてきた。
 克は、「お金ですか、お金は未来の造幣局から振り込まれてきます。同じ日本国の造幣局ですから、何ら問題はありません」「身分証明書も、時代こそ違え、同じ日本国が正式に発行したものですから」と言って、パスポートを見せ笑った。
 美佐子は、不思議な仕組みがあるもんだなと思って、「連絡先を教えて下さい」と、手帳を開いて差し出した。それに克はホテルの電話番号を書いた。


 亀本が帰って来て席につくと、カメラを担いだ。
 「それではいきます」と美佐子が言い、
 「福島第一原発事故以外で同じような事故がありましたか」と聞いた。
 「残念だが、ある」と克は答え、
 「言っていいのか分からないが、陸地放射能はわずか数か月で無くすことが出来ます」と言った。

 「エネルギーの問題はどのように解決されましたか」と美佐子が聞くと、
 「日本人があるエネルギーを作り出し、そのエネルギーを元にアメリカが作った。そのエネルギーは核融合炉です。今日本には5ケ所に融合炉がある。いたずらに核を毛嫌いしては未来がないし、核技術者、核科学者も育ちません」と克は言った。

 「石油がエネルギーの主流じゃなくなった後、中東の国々はどうなりましたか」
 「とても無残としか言いようがありません」
 「他の惑星の資源も利用できるようになっていますか」
 「なっています」
 「月への最初の恒久的基地建設は実現しましたか。実現されたら、その国はどこですか」
 「表向きはアメリカだが、実質的な運用は日本とインド。それは40年代後半です」

 「あなた方の時代のロケットは、太陽系もしくは銀河系を超えているのでしょうか」
 「すでに光速を超える乗り物があります。超えているというか、もうある星に日本人が住んでいますよ」
 「ええっ、」と美佐子は驚き、
 「はい。ありがとうございます」と言った。

 「この時代の日本の子供たちは、とても眼がキラキラして可愛いですよ。まるで天の童子です」と言い、
 「日本はこの世の天国です」と言った。

a0144027_21342150.jpg また「伊勢神宮、明治神宮には、あらゆる宗派を超えた、世界中の人たちが参拝に来られ、一大メッカとなっていますよ」とも言った。




 なんて素晴らしい国に生まれたのだろうか。
 美佐子の眼がしらが熱くなった。
 「大丈夫ですよ、日本人はよほどのことがない限り、日本人として生まれ変わりますから」
 「えっ」美佐子は自分の心が、克に読まれていることが分かった。

 「それでは新しい医療技術は」と美佐子は聞いた。
 「医療業界は今と比較すれば信じられないほど飛躍して、病気はすべて治せます」
 「新しい独立国は」
 「無くなった国はいくつかあるが、新しく独立した国はありません」
 「富士山は噴火しますか」
 「噴火しないが、子供のころ、噴煙が上がったニュースは見たことがあります」


a0144027_924835.jpg 「ところで自衛隊、じゃなかった日本軍は空母を保有していますか」
 「空母は現在で約120隻、空中空母は約50隻ほど、ただ詳細な数を忘れたため、これは大まかな数字で、レーザー銃やプラズマ砲などはすべて国産です。なにしろ日本は南北に長いですからね」



 「日本にはまだ米軍基地はありますか」
 「あるが横須賀のみです」

 「最後にお伺いします。今勉強したり、経験しておいた方がいいことはありますか」
 「今の日本はとても良い国だから、そのままでいいのです」

 美佐子は立ち上がって、
 「どうも長い間ありがとうございました」とインタビューの礼を言った。
 「どういたしまして」と、原田克は微笑んだ。


 二人が帰ったのち、コインをポケットに入れ ホテルに戻った原田は、あれは絶対にNHKでは放送されない。それは初めから分かっていた。
 あとは美佐子次第だ。たぶん官邸に行くだろう。
 美佐子はそのころ、NHK報道局長とビデオを見ながら言い争っていた。
 結局、放映はなしと言う結論であった。

 翌日、
 特ダネを無視された高橋美佐子は、官房副長官にビデオを渡した。
 すべては原田の思惑どおりであった。
 原田が、深々とした椅子に座り、山崎のウイスキーを飲んでいるところに、電話が鳴った。
 官邸からの電話だった。
 特務機関員であった原田は、電話を取った。


 「了」








ブログランキング・にほんブログ村へ





 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ
[PR]
by hirosi754 | 2015-02-01 00:28 | 小説 | Comments(0)