二人の酔っぱらい(3-2)


 ・
 リエールとクリスの処には、桃やっこと、あかりと言う美女がやってきた。
 芸子らしい桃やっことあかりは、
 「何でもお世話しますわ」と言った。


 a0144027_13162657.jpg「では酌を頼む」とリエールは言い、クリスに小声で「子種を残したらあかんぞ」と言った。
 「罠か」
 「あり得る」
 「DNAをコピーされる」「首相の罠だ」と、リエールは答えた。
 二人は可愛かった。連れて帰りたいとも思った。
 桃やっこは鯛の刺身をつまみ、「あーんして」と、リエールの口の中に入れた。
 「美味だ」

 クリスはあかりと芸子遊びをしている。
 「金毘羅船ふね、お池に浮かべて、しょらしゅしゅしゅう …」何やら四角い小箱を取り合っていた。
 そこに総理秘書官がやって来た。
 「なんでエミさんは物知りなんでしょう」と聞いた。
 「それは地球のアカシックレコードを読み取っているからだ」
 「はーい、万物にはみな記憶が残されているー」と、あかりが言った。
 「それからなんで地球では争いが絶えないのでしょうか、例えば中韓の反日とか」と秘書官が聞いた。
 「そんなの知るか」と、リエールが言った。

 「それより酒だ、酒を持って来てくれ」
 「あの、」
 「なんだ」
 「エミさんを、後三日ほど、お借りできないでしょうか」
 「あのな」「だから戦争も起きるんだ」「約束も守れないから争いが起きる」
 「これ、基本だぞ」と、リエールが言った。

 「はあ、でもそこを何とか」
 「あと三日か、三日だけだぞ、それに硫黄島、凄かっただろう」
 「はい」
 「しかしどうして、それが分かったのですか」
 「エミとは繋がってるからな」と、リエールが言い、
 「それに百万人にも及ぶ、失われた十支族の日本への帰還の様子も、面白かっただろう」と笑った。
 「はい、イスラエル大使も驚ろかれていました」と、秘書官が言った。

 そして新たに酒肴が運ばれてきた。
 夜は、桃やっことあかりが添い寝してくれた。
 子種が欲しいのか、抱きついてくる。

 エミはフル回転だ。昼夜を問わず学者が問いかけてくる。
 エミも疲れた。


 a0144027_1739813.jpgそこでエミは質問には答えず、大宇宙を見せた。
 驚きと歓声の声が沸き上がった。
 大小の銀河が流れながら目の前を通り過ぎていく。
 臨場感がある。
 みな自然と涙が浮き上がって来た。
 「凄い」
 卓上にテレビカメラが設置された。
 世界中のテレビに、流れゆく銀河の数々が映し出された。

 「美しい」
 色とりどりの銀河の中から、ある銀河に吸い込まれていく。
 「あ、」
 「あれは」
 「地球だ」
 そこにはちっぽけな、青い星が浮かんでいた。

 可愛いこんな星で、毒をまき散らし戦争をしていたのか、各国の首脳たちや学者たちが思った。
 テレビの前の人も思ったであろう。
 「愚かなことだ」
 また官邸に静寂が戻った。

 そもそもどうして こんな星になってしまったのか、みなが考えた。
 「教えだな」
 「そうだな」
 「こんな小さな星には、神はそんなに要らない」
 「争いの火種は、一神教か」
 「キリスト、ユダヤ、イスラム、どれを取っても砂漠の神じゃないか」
 「我こそは、唯一の神であると誰もが言うし」
 「そこで覇権を争うはめになる」
 「考えてみれば、小さなことだな」

 「えー、えへん」と、ここで、「幸いなことに わが神道は、全てのものに神は宿ると教えています」と、日本国首相が言った。
 「なるほど、この大銀河の壮大な調べをみると、そうかも知れん」
 皆は「日本神道おそるべし、さもあらん」と思うようになった。

 エミの立体画像は、まだまだ宇宙の奥深くの銀河まで映し、そしてBGMには、ショパンのノクターン第20番の遺作を流している。
 涙腺が緩んだ。
 琴線に応えた。
 全人類が、それぞれの立場で協力し合うことが、いかに大事か、首脳たちにはよくわかった。
 大進歩である。二人の酔っぱらいのおかげである。

 リエールは桃やっこと、わかめ酒を呑もうと思ったが、
 止めた。
 卑猥である。
 裸で抱き合うまでにした。
 体が反応した。
 だが、耐えた。
 耐え忍んだ。
 憐れ、クリスも耐えていた。

 福島第一原発の解体作業が始まっていた。メルトダウンした元核物質をブレーカーで割り、素手で取り除いた。
 元汚染水は、「リエール飲料水」として市販され、飛ぶように売れた。




a0144027_662021.jpg 「そうだ、カルビ焼きだ」
 「カルビ焼きを焼酎のつまみにしよう」と、クリスが言った。
 秘書官に焼肉セットを頼んだ。
 迎賓館に、大型のガスコンロとたれ、焼肉が運ばれた。
 「ニンニクも頼む」
 「それも大量に、だ」
 ガスコンロに着火した。それからほどなく焼肉を焼いた。
 もうもうとした煙が出て、迎賓館の中に焼肉の臭いが染み込んでいった。

 「ざまあみろ、エミをこき使ったお礼だ」と言って、二人はニンニクの臭いと、煙が充満している金ぴかの迎賓館の中で笑った。
 「このにおい、暫く消えんだろうな」と、クリスが言った。
 あかりと桃やっこが、次々と焼肉を焼いている。
 「おい、ゆっくり呑ませろ」とリエールが言う。テーブルの上と足元には、酒瓶が山となっていた。

 総理官邸では「東京裁判」を見ている。
 「ほんと、めちゃくちゃだったな」と、アメリカ大統領が言うと、
 「どう見ても大和民族は立派だった」と思った。
 「どこが」と、中国主席は言うと、
 「今の時代を見たら、結果的に西洋列強に勝っているだろう」と言い、
 「勤勉で礼儀正しく、暴動も略奪も起きない」 中国主席は黙ってしまった。
 「ところで例の酔っぱらい、こちらに呼ぶか」と、英国首相が言った。
 「ああ」
 「そうだな」と言うことになり、首相補佐官が呼びに行った。

 二人は、ふらふらしながらテーブルに着いた。
 あたりにはニンニクの臭いが漂った。
 英国首相は、人類に何が欠けているかと二人に尋ねた。

 「人類」
 「人類か、俺も人類だけど」と、リエールが言った。
 「あ、いや地球人として」
 「ああ、それは簡単だ」
 「他人のものを盗まないこと、これは十戒にも十善戒にも書いてあることです」
 「国も そして心もね、姦淫しちゃダメですよ」と、リエールが言った。
 「これが地球人に一番欠けているところです」
 「宇宙の泥棒集団です」「地球人は」
 また沈黙が訪れた。

 「泥棒ですか」
 「泥棒です」
 また沈黙が訪れた。

 「どうすれば直りますか」と、英国首相が聞いた。
 「当分治らん」と、クリスが言った。
 「治りませんか」
 「先ほどエミの流れゆく大銀河群を見たでしょう、あの時のような深い畏敬の念を持つことです」と、リエールが言った。

 「ハップル望遠鏡で見ただけじゃ解りませんよ、自分で行かなきゃ」とも言った。
 「うーん、時間がかかるな」
 「だから当分治らん」
 「でも俺たち酔っぱらいが来ただけでも、だいぶ違ったろう」と、クリスは言った。
 「いずれあなたたちも、宇宙船を創って他の星に移住しなきゃならないんだよ」
 「50億年、直ぐだよ」とも言った。
 「はあ」

 「大丈夫ですよ、その時は大勢の仲間が迎えに来るから」と、リエールは言った。
 「そうですか」
 「そんな計画があったんですか」
 「ありがたい」と、総理は言った。
 「しかし宇宙の泥棒集団とは」
 「むさぼりすぎるからだ」と、クリス。
 「言われてみれば、それもそうかも知れん」
 「リエール殿、クリス殿、それにエミ殿、あなたがたは地球の大恩人だ」と、総理は持ち上げた。

 「エミも疲れただろうから、そろそろ帰る」と、リエールが言った。
 「え、」
 「もう帰られる」
 「なにか不手際でも」と、総理が言った。
 「いや」
 「なにもない」

 「それでは一度、宇宙船に乗せていただけませんか」と、総理が提案した。
 「ああ、それは妙案、総理よいことに気づかれましたな」と、各国首脳は言った。
 「それはいいけど」
 「実は」
 「船内はごみ屋敷で」と、クリスは言った。
 「ああ、それは一向に構いません、さっそくクリーニング業者を呼びます」と言うことになった。

 「悪いな」
 「機具の周りはいじらないでな」とリエール。
 総理は席を外し、クリーニング屋に「ごみは捨てず、一か所に保管するように」と、電話をかけている。
 これも罠か、席に戻ると、
 「それで何名乗れますか」と聞いた。
 「50名がやっとだ」とリエール。
 各国首脳は騒ぎ始めた。「俺も乗る、いや私も、自分も頼む」
 そこでテレビ局一社と、先進国順に決めた。
 「いや、GDP順だ」と、中国共産党主席が言う。
 ならば、常任理事国ということで入れた。

 ピカピカの宇宙船は、総理官邸を離れ、一目散に銀河の中に飛び込んだ。
 宇宙船の壁は365度、周りの景色が透けて見える。
 テレビカメラの映像は、エミが増幅して地球に送っている。
 「おお、」
 「これはこれは」
 流れゆく銀河の数々に、みな壁に張り付いている。
 「美しい」
 「こわい位だ」
 首脳たちは、まことの神の気配を感じて、ただ終始、無言であった。

 「これから四次元に入ります」と、リエールが言った。
 すると、耳障りないやな雑音が聞こえて来て、それが過ぎると首脳たちは霊界に入った。
 おのおのの首脳は、自身の恥ずかしい姿を走馬灯のように見た。
 涙が頬を伝わった。
 「ワープ解除、これから三次元に戻る」という声が聞こえて来た。
 そこはもう、30万光年離れた場所であった。
 目の前には、青く光る惑星があった。

 「寄ってみますか」と、リエールが言った。
 「いやあ、私どもにはちょっと」と、先ほどの醜い自身の姿を思い出して、
 「恥ずかしくてとても寄れない」
 「自力で来れるまで待ちます」との、首脳たちの意見であった。
 「ではエミ、映像だけでもお見せして」と、リエールが言った。
 円盤の中央にあるテーブルの上に、立体画像が現れた。

 牧歌的な風景であった。
 高層ビルも、高速道路もなかった。
 「もっと寄せて、そうあの子ら」と、クリスがエミに言った。
 それはもう、地球では見ることもないほど、絵ににも描けないほど美しく、可愛い女の子と男の子たちだった。
 そして天女のような先生と手をつないでいる。

 「エミ、都会を映してみて」と、クリスが言った。
 半透明なビルが並んでいて、歩道は程よく緑に光っている。
 街ゆく車は浮かんで走っていて、空港では宇宙船がひっきりなしに、いろんな光を発光させて離発着していた。
 空はあくまで青く、山々から流れる渓流は、すがすがしいイオンを発ししていた。その地下には、巨大な水素発電機が回っていた。

 「では帰りますか」と、リエールが言った。
 「四次元を通りますから、見たくないものまで見えるので」と、各首脳にティッシュを渡した。

 それからワープして地球に戻った。テレビを見ていた大勢の人たちの歓声を浴びた。
 天皇陛下も見ておられた。
 「どうでしたか」と、リエールは首脳たちに聞いた。
 「うーん」
 「よくわからん、わからんが素晴らしかった」
 首脳たちには、それしか言いようがなかった。この地球では本音が言えないのだ。だがあの四次元での涙は本物であった。

 「綺麗だったー」と、桃やっこが言った。
 「なにが綺麗だったの」と、リエールは言った。
 「ほら、あの子ら、テレビで見てたよー」と答えた。
 「ほーう、あの星の子供らか」エミが四次元を通して送って来た映像だった。
 「あの星の人たちは、みんな綺麗だよ」
 「心が綺麗だから」と、クリス。
 「でも、あんたはブスじゃない」と、桃やっこが言った。
 「あっはっは」
 「こいつは面白い」と、クリス。
 二人で「あっははは」「あっははは」と笑った。
 「どうして笑うの」と、あかりが言った。
 「実はな」
 「驚くなよ」
 「リエール、正体をばらすのか」と、クリス。
 「うん」
 「もう、地球に用もないしな」と言って、覆面ならぬ複顔をした。

 「あ、」
 「うそ、」桃やっことあかりは仰天した。
 「え、」
 そこには端正な、どこにも欠点のないこの世のものとは思われぬ、美しいリエールの姿が現れた。
 「キヤー」
 「菩薩さまー」と、桃やっこは叫んだ。
 「じゃあ、俺も」と、クリスも複顔した。如来さまとそっくりである。
 「ええ、」っと、あかりもさらに驚いた。

 官邸に戻った二人の麗人を見て、居並ぶ首相並びに各首脳、閣僚、学者たちは絶句した。
 美しい、人はここまで美しくなれるものなのか、と思った。一点の非の打ち所もない。
 「では、お暇を頂きます」と、言葉づかいも変わっている。
 「あの」
 「何です」
 「お酒に酔っておいででは」と、首相。
 「全然」
 「初めから酔ってはおりませんでしたよ」と、リエールが答えた。
 「つまり手短に言うと、地球のレベルに合わせるにはこの程度かなと思っただけです」と、クリスが述べた。
 「うーん」
 「なるほど」
 「そうでしたか」と、感心したかのように総理が言った。
 「正式の訪問でしたら、ここまであなた方の気持ちは動ごかなかったかなと思います」
 「うーん、そう言われれば あながち …」
 「ごもっとも」
 首相は「今度会ったら、また酔っぱらいで来てくださいね」と言い、みなの笑いを誘った。
 その後、大勢の人に見送られながら宇宙船は地球を離れた。二人に任命された成果が上がったかどうか、まだ分からない。

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 それから月日は流れ、地球では、あかりが子宝を授かっていた。クリスの忍耐力のなさのおかげである。まんまと首相の罠にはまった。
 また日本では、円盤のごみの解析から、大量の化学製品やら新商品が発明されていた。

 「リエール大佐、今回の訪問で、多少は地球人の意識が変わったでしょうか」
 「うーん、どうだかな」
 「変わりゃあせんよ、クリス中佐」と、リエールは思っていた。





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by hirosi754 | 2013-11-23 08:10 | 小説 | Comments(0)