「神曲」 16-23

               16
a0144027_020642.jpg 敦盛の霊が正気を取り戻したのは、壇ノ浦の合戦が終っていた頃である。
 海上には主のいない赤じるしの空の船が、潮に引かれ風に従い、岸辺には、平氏の赤旗がゆらゆらと一面に漂っていた。
 「ああ、もの悲しや」
 敦盛の霊は、無意識のうちに玉姫を探していた。
 その玉姫が、九州の天草下島の 福連木(ふくれぎ)という所に落ちついたことを知り、敦盛の霊を安堵させた。そして落人狩りの手から、幾度も守ってやった。
 玉姫もうすうす感づいていた。うつらうつらしてくると、あの敦盛様の横笛が聞こえてくるのである。そして いっぺんに元気に成るのである。玉姫は敦盛様の死を知り、悲しみ、そして壇ノ浦で入水したのだが、司の大宮に救い上げられ、「早まるではないぞ、また時節も来よう」と、天草の福連木まで供をしてきたのである。だが、玉姫は流行り病に罹り、入滅してしまった。福連木には玉姫様の祠が在る。

 今は、敦盛と伴に高天原にいる。
 庵をかこんで仲睦ましい。
 こうして セム中尉こと平の敦盛は、神々の末席を与えられる事となった。横笛の音は、高天原の森の木々に木霊し、玉姫もそれに倣った。


               17
 このころ玉姫には、乙姫という女友達が出来ていた。頃は北条時宗が執権の時、再び蒙古襲来の知らせがあった。「ではでは、いかなる戦いぞ」と乙姫と玉姫は、見に行った。

 「これは酷い」
 「あんまりじゃ」
 正視は出来ぬ、目をそらした。
 高麗の元軍が、対馬の女子を犯し、手のひらに穴を穿け、荒縄で数珠繋ぎにとうされ、船に乗せられて行く。
 「何と酷いことをしやる」 二人の姫はそう思った。乙姫は対馬の女子に「まだ時は在る、焦らず待ちゃれ」との思いの念を送り、そうして、「おのれ、見ておれ」と、乙姫は海神を呼び、玉姫は腰に差した魔笛で風神、雷神を呼んだ。
 すると、たちどころに海がゆれ 大風が吹いた。対馬の女子が無事逃げ延びたのを知ってか、俄かに暗雲が湧き起こり、雷鳴がとどろき、風神が大風を呼び込み、大海は大しけとなった。
 元蒙の船は一隻残らず、白波に消えた。

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 元史は、こう伝えている。「至元十八年七月、平戸に至って台風に遭い舟を壊す。文虎溺れて一昼夜、海上を漂った。幸い浮き板にとりついて生延び、自艦に収容された。兵卒十余万数千人、五竜山下に見捨てた。これらは ことごとく日本軍に殺された」と記してある。

 …
 宇宙船が来ている。玉姫を乗せて帰ると言う。

a0144027_11354757.jpg 玉姫は、この地球課程を卒業したというのである。更なる魂の進化のため進級しなくてはならない。玉姫は母船に乗った。敦盛も見送りに来た。何れ会えることを信じて、この幼年期の地球を去り、新たに用意された星に行くのである。その星は銀河の中でも美しく、光る歩道があり、浮かんで走る乗り物があった。天にも上ろうという摩天楼もあり人々を羨やませがらせた。そして宇宙船は、幾人かの霊人を乗せて、消えて行ってしまった。
 …

 その後、
 敦盛は関が原で 西軍の小西行長と共に、益田甚兵衛好次と名乗り、敗れ、天草島原の乱で原城に立て篭り 火炎の中に消えた。《 後述 》 この度は、その甚兵衛、即ち敦盛が大石内蔵助の守護としてついた。両者ともセムであることに変わりはない。さて甚兵衛の腕が試されるときが来た。
 いよいよ 原城の遺恨戦である。


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 甚兵衛の霊は見ていた。この手勢で大丈夫か、戦況を見ていた。甚兵衛は、天空で全体を見ながら、大石に守りを教えた。

 「この野郎っ、」これでもかと、相手の刀を打ち払い 真っ向に切り下ろした。もう刀の柄の方にまで血糊が染みて来ている。二十人は切り殺したであろうか、街道筋は血で染まり、返り血を浴び、全身赤づくめの、まるで悪鬼のような風体であった。

a0144027_12114186.jpg 「ほう、アレン少尉か。あ奴は、やっぱ凄いな」と甚兵衛は見ていた。堀部安兵衛は、まだ血に染まっていない相手方の刀と鞘を取ると、「ふう」と息を吐き、不破数右衛門の方を見やった。数右衛門の槍も血で染まり、滑り始めていた。相手は手傷を負い、死にもの狂いで立ち向かってくる。いずれ死ぬであろうが、ここは一番、退却するかと 安兵衛と目で合図をした。
 「おおっ、ミールもいたのか。何とも不思議な縁だな」と甚兵衛は思った。二人を追ってきた侍達を山の中まで誘い、赤穂の鉄砲隊に留めを撃たした。そして数々の仕掛けを避けながら、隠し砦に入った。そこは天然の要塞に成っており、堀部安兵衛と不破数右衛門、大高源五らの棲家とも成っていた。
 「なんか血生臭いなあ」
 「滝壷で沐浴でもするか」と安兵衛は言った。
 他にも隠し砦が幾つも造られている。甚兵衛が、大石に思念を送って造らせた洞穴であった。主に江戸藩邸にいた城詰の侍達が使っている、隊列の最後尾を狙っての、遊撃戦が彼らの役目であった。


 これより前、城受け渡しに来た 美濃の大垣城主、戸田采女正の軍勢はおよそ百数十騎、赤穂の城に向かって隊列を組んでいる。城主、戸田采女正の帰りを待っているのである。
 「どえりゃあ遅いのう」と、皆が言っている。
 戸田采女正の高飛車な城明渡しの言葉に 激昂した侍が、「なにをっ」と二の句も告げず、あっさりと首を切り落とした。ほんと、しごくあっさりと、首が飛ばされた。すると従者達が、たじろぎながらも柄に手をかけ、赤穂の侍達との切り合いになった。勝敗は決まっていた。そして城壁の上から、大手門の外に放り投げた。采女正の頭が転ろがり落ちた。 それを取りに行こうとすると一斉に銃弾が飛び交い、大手門は既に骸の山に成っていた。

 交渉の決裂であった。大石内蔵助は、甚兵衛の念じた通り、城壁には数々の、銃眼のための新しい穴を穿っていた。城主の死と、背後からの第二陣の潮田又之丞らの切り込みをかけられたら、たまったものではない。敵の侍達は、「何をっ、この田舎侍が、待たんか、こらーっ」と死に物狂いで 潮田又之丞と、貝賀弥左衛門らを追いかけてくる。潮田又之丞らは仕掛けの有る道を巧みにかわして山に上り、追ってきた者には銃弾の雨を食らわし、罠にかける。枯葉の下には蒔き菱が敷いてある。一度足をやられたら、戦意は半減し格好の標的になる。城内では鉛を溶かして型に填め、銃弾を作るに おおわらわであった。敵の軍勢百数十騎は 数騎となり、後は堀部安兵衛と不破数右衛門らの遊撃隊の軍門に下り、全滅した。


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 赤穂の城からの 総登城の触れ太鼓で、皆が集まった。
 大石内蔵助は大広間に皆を座らせ、甚兵衛の考えを受け、これからが徳川との一戦になることを告げ、「今のうちに去りたい者は去っても構わぬ」と言った。誰も去ろうとはしなかった。浅野家では士分以上の者が二百十余騎あった。思うところ敵はどの藩が来るかは分からぬが、恐らく数倍の兵力で来ることは確かである。とにかく鉛弾と、火薬と、兵糧米をかき集め、おのおのの隠し砦にも配分しなければならない。赤穂藩は三方を山で、一方を海によって囲まれている。

a0144027_1212406.jpg 江戸からの第二報で、主君 浅野内匠頭が、江戸城の松の廊下で刃傷に及び、田村邸の庭先で切腹させられた旨の知らせを受け、大石の考えは固まっていた。やはり気の強い甚兵衛の考えであり、その決断は素早かった。江戸藩邸の侍達を直ちに赤穂に呼び寄せ、長崎のオランダ商館と大阪の堺に、新型の鉄砲を 大量に購入させていた。


 …
 それが今赤穂の海に届いていた。
 「これは いい」 これで、致命傷にならなくても、
 「痛手は深いな」と早速、試し射ちをした。
 「おおっ、これは凄いなっ」と皆が思い、
 「俺にも撃たせろ」 と口々に言い合っていた。
 …
 もう何時死んでもいいという、いや 死に場所を求めて諸国を旅してきた浪人達も手厚く受け入れた。三方の山には、彼らの潜む洞窟を幾つも調えてやった。表からは分らない。 近在の若者達も加えてくれと言う、そこで足軽達が鉄砲の撃ち方を教えた。飲み込みが早い。「うーん、これは 使える」それではと、浪人達の洞窟に入れた。浪人達は主に夜討ちに集中していたので、昼寝をしている。だから昼間、若者達が見張り役に立った。合図は やはり、山と川であった。


               20
 甚兵衛は、将軍綱吉の体の中に入った。そして綱吉を、かんかんに怒こらせた。元はといえばお前のせいだと、赤穂城征伐に、な、何と、吉良上野介義央を指名した。
 「あっはっは、」ものの見事に、甚兵衛の計略に はまった。

 吉良は二倍の兵力、五百余騎余りで良いだろうと見栄を張り、何時もの癖で相手を侮り、赤穂に下った。まずは赤穂城を取り巻いて、火のついた弓を射掛けた。ひっそりしている。また弓を射掛けた。赤穂城には天守閣が無いのである。燃えるものが無かった。
 そして怒涛のように銃眼から一斉に鉛弾が飛んできた。「ひえっ、」と及び腰になった。それから弓矢の隊は馬を射た。これが戦法である、いか仕方がない。一本道を後ずさりし初めて、後方と山側から十時砲火を浴びせられた。そして堀部安兵衛と不破数右衛門らの切り込みが始まるや、進藤源四郎、大高源五、武林唯七、中村勘助、赤植源蔵らが加わり、刀の柄が血のりでべっとりとすると、また山側に上り、追っ手に一斉射撃をする。
 そして弾に当たらない者は罠に落ちる。
 それは急ごしらえの落とし穴であったが、皆、良く落ちる。落ちて竹串に良く刺さる。「こいつ竹串まで持ち上げくさって」と言いながら、刺さった者どもを引き上げて、元道りに切り口を突がした竹串を刺し、網をかけ 枯葉を蒔いて復元する。

 夜は大石父子、原惣右衛門、矢頭右衛門七、大石孫四郎、大石瀬左衛門、三村次郎左衛門、岡本次郎左衛門、それに夜目が利く者達が 大手門を開け、吉良の陣へと夜討ちに行った。ここで主な働きをしたのは、あの命知らずの浪人達であった。
 人は重用すればするほど、その働きに答える。人は見かけで判断してはいけないなと、大石父子はつくづく思った。討ち死にしたのは、浅野家とは何の縁もゆかりも無い人達であった。然るに吾が子、大石主税良金(ちからよしかね)の盾となって死んでいった。
 「ああ、何としたお人方か… 」大石は 天を仰いだ。

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 吉良親子はその度に何度も飛び起き、憔悴しきっていた。
 「上杉の援軍は まだ来んのか、千坂兵部は何をしている」 兵力はもう五拾騎そこそこである。そこで援軍を頼むと使者を送ったのだが、その使者が、途中ばっさりと切られてしまった。どうやら街道筋を見張っていた、見張り役の若者が知らせてくれたようである。

 次の日の未明、鉄砲隊を吉良の陣幕の廻りに ぐるりと忍ばせ、
 弾が尽き果てるまで、撃たせに撃たせて突入した。
 片足に銃弾を食らい、まだ生き残っていた清水一学などは堀部安兵衛らに、小林平八郎は腹部に銃弾を浴び、不破数右衛門との死闘の末、「こ、これが山鹿流の軍略かっ、」と言わしめ、神崎与五郎により無残にも切り殺された。が、またしても あの男、
 そう あの男、
 吉良上野介義央は何処にちくでんしたのか、明け方近くまで ようとして居所が掴めず、行方知れずであった。そして 夜が白々と明けきった時、武林唯七が、大きな塩釜の中に隠れて蓋をしていた、吉良上野介義央を見つけ 引きずり出し、「あわうあわう」と何ごとか言っていたが、
 「吉良殿と御見受け申す」と大石が首をはねた。
 それから亡骸になった敵方の侍達を、赤穂の人数分、城中に入れ、赤穂の装束に着替えさせ、油をかけ、火を放った。そうしておのおの浪人姿などに身を変えて、通行手形は幾らでも 敵の侍達が持っていたのを利用した。そしてあの若者達も、友を連れてついて来た。



a0144027_12495014.jpg 大石は、懇意にしていた庄屋、名主達に帰農することを告げた。もう赤穂の侍たちは全員死亡との噂で追手は来ない。庄屋はそれぞれの方のお名前を付け 田畑に出来る土地を与えた。そうしてそこに、大石村が出現した。
 更に山里の、潅木の生えた土地を、帰農組二百名で開墾した。根っこを掘り起こし、石を積み棚田にした。皆はそれぞれ妻子を呼び寄せ、朗らかな笑顔にかえった。大地に根ざして生きるということが、これほどまでに人を益するものであったのか、皆の顔がそれを物語っていた。


               21
 月日は移り、様々な出来事があったが、
 時は過ぎ 現在に至った。
 人は、何回生まれ変わり、死に変わりするのだろうか。一億回か二億回か、百おく回か 千おく回か。それでついに神となり、尚、何千億年と生まれ変わっては他の星々の地上に降り、その星の上で、未だ幼い生類を育て上げ、人として仕上げていく。
 人として生まれ変わって行くその度に、また幾つ宗派を変えるのか、その時々、その教え教えに導かれて人は生きている。ある時は白人となり、ある時は黒人となり、またある時は東洋人となり、ある時は男となり、ある時は女となり、またある時は富める者となり、ある時は智恵なき者となり、自らの魂の糧を求めて行く。それで何を得たのか。ゲーテの言う通り、益在ること、正しきことを成し続けられたのか、
 あと何億年経てば解るのか。

 ああ、だがそれにしても、この地球には神々が多すぎるし、無益な争いも後を絶たない。いよいよ恒星の太陽系を司る真の大霊が、中天近くでも好い 姿を現す時が来ている。
 その大霊の光を、プリズムに分光された色とりどりの御光りで、それぞれの神々が、その持ち場、持ち場で、活動しておられるそうだが。かたや赤外線のモーセから、かたや紫外線の天御中主(あめのみなかぬし)の神様まで、とても意思疎通がされているとは思えない。それで数多くの原理主義が横行し、間違った考え方が流行り、無知さが故、人や子供が自爆している。
 神の一喝という奥の手は禁じ手なのか、今それが必要とされている。

 そして無間地獄に何億人、地獄に何百億人と、それも示す時が いま近づいてきていると思う。いかに幼年学級の星と雖も、いや だからこそ、間違った行ないは、直ちに時間差を置かずに教える必要があると思う。セムちゃんらの星の仕組みも取入れて、神々が手を取り合って この星を救って頂きたい。私くし、作者(森田)に加勢を頼むと言われたら、「おお、」是非是非こちらから お願いしたい。

 そしてその時がやって来た。
 「ええっ」
 もうですか、
 「  」
 こんな私でも好いのですか、と聞き返し、
 今度は、太田大尉と一緒にやってもらいたいとの、天の御告げであった。


               22
 大田大尉と私は、薄暗い景色の中の 古びた御堂に辿り着き、ここから地獄に続く苔むした石段が下に延びて行っている。先が見えない。かなり傾斜が急だ。
 大尉は、ここの御堂で待つと言われた。

 「えっ、」
 「今なんて言ったの… 」
 こんな真っ暗な石段を、私一人で
 「えっ、嘘だろう」降りて行くのか、
 「俺一人でか」
 「  」
 地獄の階段を 降りて行くのか…、

 口は災いの元だなと思って 暗闇の階段を降り始めた。目が少しずつ地獄の様相をとらえ始めていた。天御中主の神様のいう通り、本来悪人など存在しないと、強く心の中では思いつつも、後ろを振り返る勇気がない。そして苔むした石段を降り切った。

a0144027_1295567.jpg かなり浄化された霊人の様だ。この日の 苔むした石段が降りてくるのを待って、火炎地獄から来た霊人とか、色情地獄… ああ、何という言葉の響きか、私も一度はあやかりたい。いろんな地獄、煉獄から来た霊人達が集ってきている。
 そして一人ずつ階段を上るのだが、その人その人によって階段の反りが異なり、四つん張りになり必死に耐えていたのだが、悟りの程度により 苔むした石段は更に反りかえり、彼の者は落ちる。何人かの霊人は罪を悔いていたのであろうか、すいすいと石段を上って行った。石段の傾斜が急になり、如何しても上りきれなかった霊人に 私はとくとくと話しをした。神や仏があるものかと言う霊人に、神を外に求めるなと、貴方が神そのものだと、ちょうど、玉葱の話しを喩えて言った。玉葱の中心に「燦然と輝く」貴方の真我が在ると、宇宙開闢以来の御姿が在ると言った。

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 「なあ。もういい加減にして、ここいらで その古い玉葱の皮も剥いでしまいましょうよ。大丈夫だって、貴方が消えて無くなる訳じゃなし、そう心配はしないで」「この宇宙をお創りに成られた創造主さまは、純粋な愛と叡智の御方なのです」
 「愛は愛するものを求めて止みません」
 「そしてより高みへと、より進歩させようと、創造主様は思われているのですよ。だからこそ不完全なままの人間を創られたのですよ。始めから完全な人間を創られていたら、人も宇宙も進化しません。そしてそれは無限の愛でも叡智ともいえません。創造主のお心とは違います。だからこそ敢えて、私達に未熟さを残し、至高な愛への道のりを残されました。そうは思われませんか」

 「おい、聞けって」
 えっ、
 「お、おれか… 」

 「そうだよ。どうか思い出してく下さいよ、」
 「私達の心の中には、神様が ずーっとおられる。もし私達が地獄へ来たなら、きっと神さまも一緒に地獄へ来ておられるでしょう」と言った。そこいらにいた霊人、赤鬼、青鬼も、聞き耳を立てている。
 「神は自らの内にこそ在り、いわゆる神々と言われている方々も、余力で持って、いや全力をもって人助けをしておられる。


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玉葱の表皮は自らを守らんとして外皮が破れた時のみ、次の薄皮が体を茶褐色に染め、外敵から身を守る。その一番外の意識、玉葱の表皮は、自分のことしか考えない、肉体の自己保存の意識、言わば恐怖心が源に在ると、よくよく承知して頂きたいのです」

 「それは、三次元での衣を守るためであって、君等は死んで何百年ですか。その肉体の自己保存の意識、それは何ですか。何から自分を守ろうとしているのですか。あの切なく苦しい時代の肉体は、もう既に無いのですよ」
 そう、そう、そうです。未練なく脱いで肉体の意、意識…

 「うわあああああっ、いま何を吐いたの」
 「うわあっ、そいつも、この穴の中に投げ捨ててしまいましょうね」
 「ふはあっ、えらいもん見た。なんだろ、あ、あれ… 」んーっ、ま、ま好いっか。


a0144027_131233.jpg 「私が私がといっている自分の姿を、こん畜生がーっ」と思って、「このばかやろうー」と言って、みんな その古い皮衣を、この穴の中に投げ捨ててしまいましょう。そう、そうです。「いつか誰かが、助けに来てくれるとでも思っていたのですか」
 「  」
 「いいえ、それは違います。全く違います。誰も助けには来てはくれません」
 「貴方様を助けるのは、貴方様しかいないのです。貴方様こそがね、実はね、本当はね、神様そのものと繋がっている御方なのです」と、おこがましくも言ってしまった。そして全員石段を上って行った。私はあの甘美な響き、色情地獄に一時心を奪われたが、「駄目だめ、不浄な心は駄目じゃん」と思って、皆と共に苔むした石段を上って行った。


               23
 「うーん、どうやって彼等を説得した」と大田大尉は聞いた。
 「それは只、私の本当の気持ちを話しただけです」と答え、未だかつて全員上ってきた試めしが無いとのことであった。御堂の側には 五百人位の霊人が集まっている。地獄から解き離れて嬉しいのであろうか、喜色満面である。おそらく数百年に及ぶ、地獄での生活であったのであろう。それで大田大尉の後ろを飛んで、皆は自分の本来の霊界の家に立ち戻った。

 それから、ひととき地獄の垢を取り去った後、皆は役所のような所に行った。次に産まれ変わって行く家庭を探すのである。上層から降りて来られた霊人は、しきりに両親となる人のIQを気にしていた。また家業が安定し、二代目、三代目をしきりに気にする輩もいた。次に剛の者は、両親の体格、運動神経を気にしていた。ユダヤや、アラブの霊界からも、戦いに嫌気がさして来られた霊人もいた。そして三週目を過ぎた生き霊となる母親が来るや、平身低頭となり、両の手を合わせてその母御に、是非是非産んで下されと懇願する。そうして産まれてくると、これらの一切の出来事を忘れ、上手くいかないと、「何故、俺を産んだのか」「どうして私を産んでくれたの」と母親を責める。何時の時代でもそうだが、全てが無知から始まっている。

 大田大尉の後ろを飛んで来た五百人ぐらいの霊人は、いや何処でも良いのだと、私を産んでやろうという、そんな貴徳のあられる御婦人であれば 貧しくても良い、たとえ畳に投げつけられて死んでも良い、決して恨みはしないと言った。さすがは地獄に数百年いただけのことはある。改心の度合いが違う。
 何故かとその霊人に大尉は聞いた。その霊人は私の言葉の、神を外に求めるな という言葉と、玉葱の話しに悟り、古い皮衣を脱ぎ捨ててきたと言う。

 神は我が胸中にありか。大田大尉は それはそれで良いのだが、一抹の不安も感じていた。誰しもがそうだが、産まれた時には全て忘れ去って生まれ出てきている。無事に船出してくれれば良いのだが、後はその父母と 守護霊の腕如何である。
 一抹の不安とは、良き霊は良き母と父を選び、IQを調べ なおかつ、DNAも調べる。そうした計画性を持って つつがなく家庭を持ち、入寂する。そして大概の人は罪を重ねることもなく、また人の痛みを知るベくも無く、中層の世界での輪廻を繰返す。是で良いのだろうか、霊界での差別化が進み、労多きものが、その労多きがために また失敗をして、更に労多きものに転生する。是で果たして良いものだろうか。

 今、作者 (森田)が連れてきた霊人には 何の計画性もない。彼の人達とは余りの違いようなので、皆の目にも見えない、縁(えにし)という太い糸を大尉は付けてやった。誰かが困った時、その縁により、かつての地獄の同僚同胞であった、もう見ず知らずの人になっている方が、自然に助けてくれるように細工をしてやった。


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by hirosi754 | 2010-06-02 16:42 | 小説 | Comments(0)