a0144027_21573775.jpg 「うひゃあ」
 「おい、起きろ、これは美味いぞ」
 テーブルの上にも下にも酒瓶が幾つも転がっている。
 「どうした、何が美味い」と、眼をこすり ふら付きながらも椅子に着くと、
 「何だ この魚、赤いぞ」
 「金目鯛だ、金目の塩焼きだ」
 「ほう…」
 「なるほどなるほど、これは美味い、酒のつまみにはもってこいだな」と言って、二人はまた飲み始めた。

 「ところでこの金目鯛、どこで仕入れた」
 「ほらそこ」と、窓の外の青い海を指さした。
 「この船で釣りをしていたのか」
 「そうだ、まだあるぞ」
 「そうか」
 「酒が進むな」
 「ああ、進む、美味いな」

 「なあ、ところで今日で何日目だ」「出発してから」
 「二日目だ、二日間飲み通しだ」
 「30万光年で二日か、少し遅れて四次元ワープしたからな」
 「で、ここはどこだ」
 「ここか」
 「人工頭脳 エミに調べさせてみよう」
 「えーと、ここは銀河系の端にある、地球という星らしい」と、クリスが言った。
 「うーん、えらいところに来たな」と、リエールが言った。

 「リエール、これからどうする」
 「そうだな、飲みながら考えるか」
 「エミに教わった、この金目鯛の煮つけも美味いな」
 「うん」
 「それはそうと、この星の序列はどうなっている」
 「序列というと」
 「最も格式の高い国」
 「そこへ降りるのか」
 「降りてもいい」と、リエールが言った。
 「エミ、調べてくれ」
 「はい」

 「天皇陛下、ローマ法王、エリザベス女王、アメリカ大統領、各国大統領、各国首相、の順となっております」と、エミが言った。
 「天皇とは、日本国のエンペラーか」
 「そうです」
 「それじゃあ、日本まで飛んでくれ」
 「分かりました」と、エミが応えた。
 「本当に行くのか、日本にな、そして本当に降りちゃうのか …」と、クリスは思った。

 二人を乗せた円盤は東京上空に来た。
 「さて、どこに降りるか」「どうせなら首相官邸にしよう」と、リエールが言った。
 「えっ、いきなりか」とクリス。
 そして首相官邸の前の中空に浮かんだ。


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 時ならぬ訪問者に、官邸の周りは大騒ぎとなった。
 暫くして、上空には武装ヘリが旋回しだした。
 「おい、ミサイルをぶち込まれるぞ」と、クリスは言った。
 さらに、航空自衛隊の戦闘機も飛んできた。
 「そんなの当たってもどうってことないが、そうだな、ここは敵意のないことを示そうか」
 「クリス、何がいい」
 「うーん」
 「国歌ってのは」
 「君が代か」
 「そう」
 「エミ、君が代を流してくれ」と、リエールが言った。
 そして空飛ぶ円盤から、君が代が流れて来た。
 が、短い。
 すぐに終わった。

 まだ武装ヘリが旋回している。
 「ダメだ、ひょっとして、信仰心を試しているんじゃ」と、クリスが言った。
 「俺たちをあのエイリアンだと言うのか」
 「だったらエミ、般若心経を頼む」
 「そうだ、流してくれ」
 円盤から般若心経が流れた。群衆がどよめいた。が、これまた短く間が持てない。
 「どうする」
 「はて」
 「雅楽はどうでしょう」と、人工頭脳のエミが言った。
 首相官邸に時ならぬ雅楽の音が流れた。
 「これはいい、終わりがない、エンドレスだ」

 いつしか上空には、多くの報道機関のヘリがテレビカメラを向けている。
 地上にもカメラの放列が出来ていた。
 リエールとクリスが、円盤の窓からそれを見ていた。ロイターと日本の報道機関は来ていたが、まだBBCが来ていない。
 二人は、全世界の報道機関が集まるまで、金目鯛の煮つけをつまみに、酒を飲んで待つことにした。


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 地上では軍楽隊が整列して、官邸の玄関まで赤じゅうたんが敷かれた。
 エミのおかげで、世界中の言語が二人にインプットされた。
 眼下は黒山の人だかりである。BBCもCCTVも来た。

 「さあどうする」
 雅楽の演奏を止めた。
 「おい、どうする」と、クリスは言った。
 静寂が訪れた。

 リエールはマイクを握るや、
 「酒はあるか、俺たちはただの通りすがりの酔っぱらいだ」と言った。
 官邸からはどよめきが起こった。
 総理秘書官らしき男がハンドマイクを持って、
 「酒はあります」と言った。
 「すぐに呑めるか」と、リエール。
 「用意させます」と、その男は答えた。
 「堅苦しい挨拶は抜きだぞ」
 「承知」「さっそく酒宴の用意をさせます」と、秘書官が言い、
 「それまで待つ」と、リエールは答えた。

 首相官邸では、慌ただしく宴の準備がとり行われた。
 「用意が出来ましたぞー」と、今度は首相が言った。
 「やれやれ」
 「一杯呑んで、それから帰るか」
 「そうするか」
 二人はそろそろと、円盤を地表に着地させた。

 そしてドアを開けると、フラッシュの攻勢に驚き、世界中のテレビに二人の赤ら顔が映った。どうやら特番を組んでいるらしい。
 軍楽隊の演奏の中、総理直々のお出迎えを受け、リエールとクリスは官邸の中に入った。

 二階に上がった二人は、山海の珍味や数々の酒に狂喜した。
 「お、これはアサリの酒蒸し」
 「そう、アサリには日本酒が合いますぞ」と、首相が言った。
 「お、これはアジの開き」
 そして二人はとことん呑んだ。
 首相は、なんと安上がりな異邦人だろうと心に思いつつ、
 「どこから来なすった」と、聞いた。
 「30万光年も先にある惑星だ」「地球で呼んでいる記号は知らんが」と、リエールは言った。
 クリスは、器用な箸さばきでアジの開きを食っている。
 「で、幾日でこの星に来られた」と、首相が聞いた。
 「一昨日だ、多少寄り道したから二日かかった。四次元ワープすると直ぐだからな」
 「ほう」と、首相は唸った。

 「ところで酒のお返しだ、何がしてもらいたい」と、リエールが言った。
 首相は暫く考えて、
 「そうだなあ、福島第一原発を廃炉にしたいのだが …」
 「無理だろうか」と言った。
 「何だそんなことか」
 「お安い御用だ」と二人は、SPに囲まれて宇宙船に戻った。
 「エミ、福島第一まで頼む」と言って、空飛ぶ円盤は消えた。

 地上ではアメリカ大統領が到着していて、「何で帰した」と、首相に詰め寄っている。
 各国首脳もぞくぞくと集まって来ていた。


 a0144027_1254325.jpg宇宙船は、福島第一原発まで来ると、不思議な音階とともに、青色のビームを照射し始めた。
 得も言われぬ音階であった。
 照射が終わると、エミが「六ヶ所村まで行ってみましょう」と言うから、そこの核廃棄物貯蔵施設まで行き、不思議な音色と共に、ビームを照射した。

 無事除染が終わると、二人を乗せた宇宙船は官邸の前に姿を現した。


 「何か妙だ」
 「うん」
 世界中の首脳が集まっている。
 「こりゃあ、えらいことになったな」と、リエールは思った。
 「俺たちばかりじゃ太刀打ちできん、エミも連れて行こう」と、クリスが言った。
 それでエミを取り外し、船外に出た。

 SPに取り囲まれて二階に上がった二人は、総理に「もう大丈夫」
 「放射能はなくなった」と言った。
 「なめてもいい」
 「燃えるゴミ、燃えないゴミに分別してもいいし」
 「汚染水は、水道の水より綺麗だ」と言った。

 アメリカ大統領は、「なんと、核物質を無害化できるのか」と驚いた。
 「それでは困る」と、中国主席が言うと、
 「あんたらの星がどうなろうと知ったこっちゃない」と、リエールが語気を強めて言った。
 「まあまあ、お気を悪くなさらず、どうぞご一献」と、首相が取りなした。
 「これは」
 「芋です」
 「芋とは」
 「芋焼酎です」
 「ワインもありますぞ」と、フランス大統領が言った。
 それでワインと芋を同時に呑んだ。
 だいぶ酩酊してきた。呑み合わせが悪かった。

 「あの丸い箱は」「何やらコンピュータみたいに見えますが」と、人工頭脳のエミを見て首相が聞いた。
 「エミのことか」
 「じゃあ、この国の歴史を見せよう」と、エミに一億五千年前のムー大陸の終焉を見させた。
 テーブルの上にムー大陸の立体画像が浮かんだ。
 「拡大して」とエミが言うと、ムー大陸の都市が浮かんだ。


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 「横から、そう眼の高さ、人間の視野で」と言うと、ムーの貴族が生き生きと映し出された。
 「この方々が、日本人そして天皇家の祖先です」と、エミが言った。
 「おお、」と歓声が上がった。
 そしてムー大陸がゆっくりと沈んでいった。
 貴族たちは、天の浮舟で船団を組み、日本列島へ向かう様子が映った。
 また一部の船団はエジプトに向かった。
 「これが十二支族の祖先か」と、イスラエルの大統領は唸った。
 「うーん」
 暫し沈黙が訪れた。

 「我が国の歴史は、」
 「地球の歴史は、明智は何で謀反を試みた、その有り体を見てみたい」などなど、各国首脳は口々に問いかけた。
 そして、
 「是非、三日ほど エミを預けてくれ」と、リエールとクリスに懇願した。
 首脳たちは、著名な人類学者、歴史学者に電話をかけ始めている。

 「酒だ」
 「酒を浴びるほど飲ましてくれれば、考えんでもない」
 「芋もワインもダメだ、無臭の宝焼酎がいい」と、リエールが言った。
 なんとまあ 安上がりな人たちだなあと、各国の首脳たちは思った。
 「肝臓は大丈夫ですか」と、首相が心配して聞いた。
 「大丈夫だ、地球人より十倍は強い」と、ほろ酔いのクリスが答えた。
 首相はなぜか、ニヤッと含み笑いをした。
 幹細胞を取れると思ったのであろうか。
 「それじゃあ三日間だけですぞ」と、リエールは言った。

 エミを残して二人は迎賓館に入った。
 首脳たちは、人間が猿から進化したものではなく、おのおの遠い惑星から移住してきたことを知った。
 学者たちは、残された72時間を不眠不休でエミに問いかけた。
 そして、失われたアークが、伊勢神宮に保管されていることも知った。
 もうみな疲れ切った。

 何を思ったのか、それとも疲れて壊れたのか、アメリカ大統領が硫黄島の激戦地を見ている。
 映画とは違い立体画像である。
 迫力が違う。
 それに硝煙の臭いと爆風の大音量がテーブルを揺るがした。
 脳みそが飛び出し、首脳たちの眼前に来た。
 「うわ、」と居並ぶ人々は顔をそむけた。
 「これはひどい」
 「まったく」







 また中国主席は、南京大虐殺と言われる時代を見た。
 民間人の死人はいなかった。それより みなこぞって、南京城に逃げ込んで来ている。
 主席は苦虫を噛み潰したような顔になった。




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